静脈瘤

静脈の構造

動脈で全身に送られた血液は、静脈を流れて心臓に戻ります。
手や足から重力に逆らって心臓に血液を戻すために、静脈の血管の中には逆流防止弁があります。
また、血液が心臓に向かいやすいように、筋肉が静脈を挟んで押し上げる「筋肉ポンプ」という働きもあります。

静脈瘤とは

静脈瘤は、風船がふくらむように壁の薄い静脈がふくれたものです。
原因は、下肢の表面にある表在静脈が、深部静脈に合流する部分の逆流防止弁が壊れて、心臓へ戻るべき静脈の血液が足の方に逆流することです。

鼠頚部(足の付け根)の弁が損傷される場合が多いのですが、膝窩部(ひざの裏)からの逆流や、大腿部・下腿部の中間にある穿通枝と呼ばれる部分からの逆流がみられる場合もあります。

静脈瘤の原因

静脈瘤ができるきっかけとしては、妊娠、立ち仕事、遺伝などがあげられ、女性に多い病気といえます。
しかし、力仕事・立ち仕事をしている男性にもみられます。

静脈瘤の症状

むくみの原因は静脈のうっ血であり、その症状もうっ血によるものです。
はじめは、朝にはむくみはみられませんが、夕方になるとむくみが強くなります。静脈の血液がたまるため、皮膚の色が青紫色になることもあります。
また、下肢のだるさや疲れやすさもみられますが、むくみの程度が強くなると、夜間や朝方に足がつりやすくなるのも特徴です。

静脈性浮腫の合併症

治療をきちんと行わないと慢性的にむくみが続くため、皮膚の変化を中心とする以下のような合併症がみられてきます。

1:色素沈着

静脈の血液がたまって、毛細静脈がつまってしまうことがあります。皮膚が赤黒くなり、色素沈着という状態になります。

2:うっ血性皮膚炎

毛細血管から白血球成分が漏れ出し、漏れ出した白血球成分から放出される炎症性物質により、アレルギーのような皮膚炎の症状がみられます。同時にかゆみも強くなりますが、かゆみでひっかき傷ができると炎症はさらに広がり、色素沈着も強くなります。

3:血栓性静脈炎

静脈瘤によってふくらんだこぶの部分に血液が固まって血栓を生じ、皮膚の赤み、熱や痛みがみられる状態です。炎症をくり返すと、色素沈着や皮膚の硬化につながります。

4:皮膚の硬化

炎症や皮膚炎をくり返すことによって皮下組織に硬い線維が増え、皮膚や皮下組織が硬くなっていく状態です。リンパ浮腫と同じような皮膚となることもあります。

5:皮膚潰瘍

皮膚炎でかゆみが強いところをひっかいて傷ができた時、むくんだ皮膚は傷の治りが非常に悪くなります。そのため、傷が次第に大きくなり、最終的にはただれて皮膚潰瘍となります。
また、むくみが強いと傷はしばしば周囲からひっぱられて大きくなってしまいます。そこで、十分な圧迫を行ってむくみを減少させながら、傷の処置をする必要があります。

静脈瘤の治療

静脈瘤は、治療せずに放置すると悪化が見られます。ただ、蜘蛛の巣状や網目状静脈瘤と呼ばれる軽症の静脈瘤は例外で、極端な悪化はありません。
それ以外の静脈瘤は、たとえ軽症でも治療することをお勧めします。

保存的治療

手術を行わず治療するためには、弾性ストッキングを使用して圧迫します。軽症の方は市販の「サポートタイプ」ストッキングでかまいませんが、それでも改善しない方は、ある程度強い圧迫力の医療用弾性ストッキングを使用していただきます。

静脈瘤の状態により使用するストッキングは異なりますが、一般的にはパンストタイプを使用します。

手術治療

静脈瘤に対する一般的な治療方法をご紹介します。

1:静脈瘤高位結紮手術

当院では、主にこの方法で治療を行っています。
静脈瘤の原因は逆流防止弁の機能不全ですので、現在静脈瘤を作っている原因となっている静脈の根本を超音波検査で確認し、その部分の血管をしばります。
この手術で静脈瘤を消してしまうことはできませんが、こぶの中に流れ込む血液量を減らすことで静脈瘤を目立たなくすることができます。
残った静脈瘤を治療する方法は、局所麻酔の手術を追加して取り除いてしてしまうか、後にお話しする硬化療法を行います。

2:下肢静脈瘤硬化療法

こぶ状に変化している静脈の中に、硬化剤と呼ばれる特別な薬を注射して、その後下肢を弾性包帯や弾性ストッキングで圧迫します。薬で血管を接着させるわけですが、静脈の中に血栓という血液の固まりができ、のり付けするような状態で静脈瘤を固めます。
ただし、弁逆流が残ったままでは硬化療法は困難ですので、手術と併用することになります。
また、手術適応にない蜘蛛の巣状や網目状静脈瘤も硬化療法で軽減させることが可能です。

3:ストリッピング手術

広範囲で重症の静脈瘤では、静脈瘤を摘出するストリッピング手術が行われます。高位結紮手術が登場するまではこの手術しかありませんでしたが、全身麻酔または下半身麻酔が必要であり、入院治療も必要です。
最近は部分的なストリッピング手術を日帰りで行う病院もあります。

4:レーザー手術

まだ保険はききませんが、静脈瘤の中をレーザーで焼いてつぶしてしまう治療法もあります。日帰りできて、全国的には徐々に広がっています。

当院での手術の流れ

当院で行っている静脈瘤高位結紮手術について、初診から手術までの流れをお話しします。

1:初診

初めて来院された方には、問診票を書いていただいた後診察をします。
視診で静脈瘤を確認した後、超音波検査を行い、どこの血管に異常があり症状が出ているかを確認します。
手術が必要な患者さまにはその旨をお伝えし、同意があれば手術に向けての検査を行い、日程を決めます。

2:手術前検査

静脈瘤手術の前に血液検査を行います。
検査内容は、一般的な肝機能などと、感染症(肝炎ウイルス等)検査を行います。
手術当日は局所麻酔で手術しますので、日帰りできます。手術時間は30分前後です。基本的に入院することはありませんが、遠方から来院される場合は1泊入院することもできます。
手術後の通院は、手術翌日と1週間後の抜糸の日だけで、その間はご自分で消毒していただきますので、仕事をされている方はこの点に注意して日程を決めてください。

3:手術当日

特に当日持参していただく準備物はありません。
手術する場所にもよりますが、鼠頚部(足の付け根)を手術することが多いため、下着は少し汚れても良いものにしてください。
手術終了後はすぐに歩行できます。もし麻酔が残って歩きにくいようでしたら、少し休憩していただきます。
保険を使用して手術できますので、費用は3割負担で1万円を少し越える程度です。

4:手術後

手術当日・翌日は入浴を控えていただきます。その後はシャワー程度かまいません。入浴後、本人が消毒しておいてください(消毒薬は手術翌日にお渡しします)。
手術後約1週間で抜糸しますので来院してください。その後は普通に入浴してもかまいません。
手術した後に次回の来院日をお伝えしますが、手術後1ヶ月頃に一度来院していただき、そこで終了か追加手術が必要かをお話しします。

5:生命保険

一部の生命保険では手術給付が受けられます。生命保険会社に手術名をお伝えして、給付できるかどうかを問い合わせてください。