リンパ浮腫の治療

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リンパ浮腫の治療方法

リンパ浮腫の治療方法は、身体への影響が少ない「保存的治療」と、手術などの「外科的治療」に分けられます。

保存的治療の代表が、日常生活の指導や「複合的理学療法」を中心とした複合的治療です。生活習慣病で考えれば「食事・運動療法」ということになり、リンパ浮腫を治療するとき基本となる治療法です。

外科的治療の代表は手術になります。最近は「顕微鏡下リンパ管-静脈吻合手術」が主流であり、全国的に普及しています。

リンパ浮腫の治療方針

リンパ浮腫の治療に際しては、まずむくみの状態、発症してからの期間、原因となった病気の状況を確認します。
当院では、まず複合的治療の必要性を説明して、その中の圧迫療法が行えていなかったり、圧迫していても不適当であれば圧迫療法の開始・変更を行います。また、重症で集中的な治療が必要であれば、入院治療をお勧めします。

ある程度複合的治療ができても浮腫が改善しないか、または炎症を繰り返したり、皮膚合併症がある場合には、手術治療も説明します。
(当院では手術治療は行っておりません)

複合的理学療法とは?

複合的理学療法は、むくんだ部分の安静や挙上などの日常生活の指導を行いながら、

1,スキンケア
2,リンパドレナージ
3,圧迫療法
4,圧迫下上での運動療法
を行い、むくみを改善させる治療法です。

リンパ浮腫の治療の根幹をなすものですので、まずこの方法を十分に覚えて、患者さま本人がセルフケアすることが重要です。
「早くむくみを改善させたい。」、「楽にむくみを取りたい。」と考え、いろいろな治療を受ける患者さまもありますが、現時点ではたとえ手術を受けてもリンパ浮腫の症状が治まると言えず、手術後も圧迫療法などの複合的治療を行う必要があります。

スキンケア

リンパ浮腫でむくんだ部分は、蜂窩織炎と呼ばれる炎症を起こしやすく、いったん炎症が見られれば、浮腫の急な悪化が見られます。炎症は細菌感染によるものですが、どこから細菌が入るか分からない患者さまもあります。皮膚が傷んで細菌が侵入することもあり、スキンケアをして感染しにくくすることが大切です。

リンパ浮腫の患肢は、乾燥したり、角化がみられてひび割れが入りやすくなったり、足趾にむくみが見られれば足趾間がむれやすくなり、水虫になりやすくなります。その部分から細菌感染しやすいため、乾燥や角化があれば保湿したり角化を改善させる軟膏を使用してください。

・水虫が見られれば治療を受けてください。
・鍼治療や灸で皮膚を傷めることは避けてください。
・過度な日焼けや、はだしで外を歩くこと(海水浴やプールサイド・温泉の浴室など)は必要最小限にした方が良いでしょう。

蜂窩織炎の治療法

蜂窩織炎になってしまった時の治療は、抗生剤の使用と患肢の安静です。アイスノンや氷枕などで患肢を冷やし、必要時以外は安静に臥床したほうが良いでしょう。
また、近くの内科や外科・皮膚科に受診して、血液検査や必要な点滴もしくは内服での抗生剤治療を受けてください。その際、血液検査も受けて白血球や炎症反応を確認してもらい、異常値が出た場合には正常化するまで治療を継続してください。しかし、血液検査が正常であれば、無意味に長期間抗生剤を使用しないほうが良いでしょう。

リンパドレナージ

手や足にうっ滞したリンパを排除するためには、その近くにある正常なリンパ管系に流れるようなわき道ができれば良いということになります。リンパ節が無くなった部分の周辺では、すでにリンパ管系に異常が見られているため、その部分から体液区分線を越えた正常なリンパ管系を探し、ドレナージの目的地とします。

十分リンパドレナージができれば、患肢に貯留したリンパ液は新しい道を通って正常なリンパ管系に流れます。このような新しい道を作る方法がリンパドレナージになります。

リンパドレナージの基本手技・手順

リンパドレナージの方法をうまく文字だけで表現することは困難です。実際にリンパ浮腫の治療法を習得しているセラピストに、その手技を実際にやっていただきながら覚えることが必要でしょう。
しかし、全国各地に十分な訓練を積んだセラピストがいるわけではありませんので、当院に相談していただいてもかまいません。

リンパドレナージはリンパ浮腫の発症予防に有効か?

「乳癌などの手術を受けた後にリンパドレナージを行えば、リンパ浮腫の発症を予防できる。」と、はっきり断言できる程はまだ研究されていません。理論的に考えると、切除されたリンパ節の周囲のリンパ管には、術後にうっ滞がみられており、リンパドレナージでわき道ができやすくすることは可能なようにも考えます。しかし、元々手術を受けた全員がリンパ浮腫になるわけではなく、手術後数十年してから発症することもあるわけですので、いつまでドレナージをするのかなど、決まった見解はありません。
リンパドレナージは予防というよりも皮膚の硬化を早く見つけることも可能ですので、リンパ浮腫の発症を早期で見つけて、早期から治療を始める体制で良いと考えます。

エステなどのリンパマッサージでリンパ浮腫はよくなるか?

エステなどで行われている「リンパマッサージ」などは、あくまでリンパ節を取る手術を受けたりしていない、正常な方が受けるものです。リンパ浮腫のようにリンパ管の異常からむくんでいる時には、治療としてマッサージを受けることはおすすめできません。
リンパ浮腫治療としての「(医療)リンパドレナージ」は、基本的に医師や看護師、理学療法士、作業療法士、マッサージ師など国家資格を持っている医療従事者が、専門的に学んで身につけている方法ですので、専門的に教育を受けている方に治療や指導を受けてください。
逆に医師などでも専門教育を受けていなければ、リンパ浮腫治療には詳しくありませんので、診察の際にご確認ください。

圧迫療法

リンパ浮腫に圧迫療法は欠かせません。どのような圧迫方法を選ぶのかによって、リンパ浮腫の改善には差が出てきます。

毎日毎日弾性着衣(弾性ストッキングやスリーブ・グローブ)を着用していても、太ももや膝・足首などいろいろな部分で食い込んでしまえば、改善せずに状態が悪化してしまいます。
また、きつくしめすぎると、太くならない代わりに皮膚自体が硬くなってしまうことがあります。
患者さまの全身状態や手や足の状態を確認して弾性着衣を選択するには、医療従事者といえどもかなり慣れていないといけません。

当院では基本的に以下の考え方で患者さまにサンプルを着用していただき、実際に着脱できることを確認してから購入していただくこととしています。

1.片足のリンパ浮腫でも、大腿部で食い込まないようにするには、パンストタイプの弾性ストッキングを使用してみる。
2.膝・足関節が食い込みやすい時には、生地が分厚いタイプの弾性ストッキングを使用してみる。
3.弾性スリーブで上腕に食い込むようであれば、スポンジなどを使用して食い込みにくくする。
4.手首付近でも食い込まないように注意する。
5.手首から上だけ圧迫すると、手背に浮腫が強くなるため注意する。
以上のような点に注意しましょう。

弾性着衣の欠点は、サイズが限られた既製品ですので、むくんで困っている方全てに合うとは限らないということです。むくみが強ければ着用できなかったり、高齢者では着脱が難しいこともあり、そのような際には弾性包帯を使用してむくみを改善させた後に、合ったサイズの弾性着衣を使用するということも必要です。

先にもお話ししたように、むくみに合った弾性着衣をあわせることには、医療従事者といえど十分な経験が必要です。また、弾性包帯の巻き方は指導することがもっと難しく、リンパ浮腫治療を十分に勉強したセラピストから指導を受ける必要があります。
もし、弾性着衣を使用しても改善しない方や、弾性着衣を履くことができていない方がありましたら、一度当院にご相談ください。

弾性着衣・弾性包帯の保険申請はどのように行うか?

購入する弾性着衣・弾性包帯が決まれば、その商品に対する指示書を医師に記入してもらいます。その指示書と購入した際の領収書を持参して、国民健康保険(国保)は各市町村の窓口に、社会保険では社会保険事務所や各保険窓口に申請してください。

手術のときに使用した深部静脈血栓症予防のための弾性ストッキングはリンパ浮腫に使用しても良いか?

平成16年から、手術中・後の深部静脈血栓症予防に弾性ストッキングが保険適用されていますが、この製品はあくまで臥床している時期に使用するものであり、立つことが多い日常生活で使用するようにはできていません。圧迫力やサイズなどもリンパ浮腫用としては適しているとは言えず、術後には使用しない方が無難です。また、術後に使用したとしてもリンパ浮腫の予防にはなりません。

運動療法

患肢を圧迫して運動することは有効です。圧迫をしないで運動することや圧迫していてもむくんでいる場合は、運動により悪化することもあります。
リンパ管は主に皮下組織にありますので、患肢を圧迫して弾性着衣と筋肉間で皮下組織を挟み込むことでリンパ管を刺激して、リンパを運搬しやすくできます。運動は散歩や簡単な筋肉運動で結構です。
ただ、マラソンやテニス・登山など激しいスポーツは決して勧めることはできません。一度試して浮腫が悪化したような運動は極力避けてください。

運動は毎日適度に習慣としてできるものを選んでください。時々負担の大きい運動をすることは有効とは言えません。

その他の治療

リンパ管-静脈吻合手術

吻合手術は、流れの悪いリンパ管を正常に流れている静脈につなぎます。いい吻合ができれば浮腫の改善が見込めます。
しかし、いったんリンパ管が痛んで発症したリンパ浮腫ですので、リンパ管の拡張が無くなり正常になるわけではありませんので、術後に圧迫を必要としなくなることは少ないと思います。

リンパ管の痛んでいないリンパ浮腫発症早期に手術することが有効ともいわれますが、その時期には圧迫だけでも改善することがあり、手術適応にはまだ一定の見解はありません。
蜂窩織炎を繰り返す患者さまや、外陰部や陰嚢の浮腫が強い方は手術が有効と考えます。

器械でのマッサージ

以前からリンパ浮腫治療に器械が使用されています。
むくんだ手や足に空気が入る袋をかぶせて、その中に器械で空気を間欠的に送り圧迫する「間欠的空気圧迫法」と呼ばれます。
しかし、空気圧でむくみを押し上げるだけであり、使用後に患肢を圧迫しなければその作用は持続しませんので、器械をかけた後すぐから弾性着衣や弾性包帯で十分に圧迫してください。

薬物療法

基本的にリンパ浮腫にいい薬物療法はありません。
しかし、高齢者で急激に浮腫が強くなった場合や両下肢の重症の浮腫では、治療中に血管内血液量が急に増加することを防ぐため、利尿剤を使用することがあります。

蜂窩織炎などの炎症には、当然抗生物質を使用します。